シス・カンパニー公演 泣き虫なまいき石川啄木
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   残された写真の大人しげな表情の所為なのか、はたまた、貧乏のどん底で不遇のまま早世した史実からなのか、石川啄木の名前には、「薄幸」という形容詞が実に良く似合います。彼が残した多くの歌は、苦難だらけの生活が生み出した哀しさをまとい、その抒情あふれる柔らかなリズムの「三十一文字」には、微かな希望が優しく横たわっているようにも感じられます。そんな「哀しくも優しい響き」は、没後100年が経とうとしている現在に至るまで、私たち日本人の心に寄り添い、支え続けてきたと言っても過言ではないでしょう。
 この<薄幸の歌人>という儚げなイメージ・・・。実際は、彼の歌を愛する側の妄想が一人歩きしたもので、その行状は、しばしば周辺の人物たちから率直に語られてきましたし、何よりも本人が残した日記に、実に克明に彼の"ダメさ加減"が記されています。そこには、鼻持ちならぬほどの自信家で、あっけらかんと大嘘をつき、借金を踏み倒すなんて朝メシ前。それでも周囲が手を差し伸べずにはいられない、魅力にあふれた青年の姿が・・・。 そんな啄木の日記を、「現代最高の戯作者・井上ひさし」がじっくりと読み解き、なぜか日記が欠落しているとしか思えない謎の期間への考察も込めて、虚実皮膜の評伝劇に仕上げたのが、1986年初演の本作『泣き虫なまいき石川啄木』なのです。



この戯曲は、啄木の死後まもなく、「日記は全部焼き捨てろ」との遺言を託された妻・節子が、夫の原稿整理の手がかりに、と日記を読み急ぐ場面から始まります。そして、この妻も、身重でありながら、不治の病・結核を患っており、彼女の身の上にも最後の時が迫っていることを私たちに予感させる幕開きです。しかし、井上ひさしの筆致は、時に軽妙に優しく、時に鋭く、この登場人物たちに迫り、容赦なく襲い掛かる人生の修羅の中で、それでも生きて生きて生き抜いた青年・啄木と家族の姿を浮き彫りにしていきます。
東北に生まれ、東北の風土や人々を愛した作者から、今、未曾有の事態に向き合う私たちへの新たな言葉を聞くことは残念ながらできません。しかし、井上評伝劇の数々には、時代の荒波に翻弄されても生きることに真摯に向き合ってきた日本人の姿が息づいています。この作品も、その代表格と言えるでしょう。

出演は、啄木に、繊細さと大胆さを併せもつ演技力に定評のある 稲垣吾郎 を迎え、薄幸のイメージの裏側に息づく生身の人間像に迫ります。また、逆境の中で、女としての意地を貫きながら夫を支える妻・節子に 貫地谷しほり、一人息子を愛してやまず、嫁への熾烈な"口撃"で啄木を疲弊させる母・カツに 渡辺えり、キリスト教的博愛精神をもって家族を見つめる妹・光子には、2001年こまつ座上演版でも同役を演じた 西尾まり、親友一家を献身的に支えつつ、やがて啄木と自分の決定的な隔たりに葛藤する金田一京助に 鈴木浩介、そして、禅僧ながら息子に輪をかけた浪費癖で一家を振り回す父・一禎を 段田安則 が演じ、段田は本作の演出も手がけます。これまで役者として数多くの「井上戯曲の人々」を生きてきた段田が、演出・演技の両面から、どのように「井上ひさしの世界」を描いていくのかも注目ポイントです。
 充実のカンパニーで挑む、井上評伝劇の傑作「泣き虫なまいき石川啄木」に、是非ご期待ください!

石川啄木という人物

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