来年2016年は、<夏目漱石 没後100年>にあたり、再来年2017年は<生誕150年>を迎えるなど、続けざまに漱石の記念の年がやって来ます。ただ、こと漱石に関しては、毎年なんらかのアニバーサリーを祝っているのかと思えるほど、新たな話題に事欠かない印象があります。斯く言うシス・カンパニーでも、過去に2度、漱石本人を主人公にした戯曲を上演し人気を集めました。最近では、ほぼ100年ぶりに朝日新聞が漱石の新聞小説を再連載しており、漱石ゆかりの熊本や愛媛の新聞にも、「草枕」や「坊ちゃん」が連載されるなど、遠い昔の文豪でありながら、日本人にとっては時代を超えて一番身近な文学者だと言えるでしょう。
さて、この度上演する "日本文学シリーズ" 第2弾『草枕』は、日本で一番身近な明治の文豪「夏目漱石」が、その初期に残した名作をモチーフに展開します。
もともと、この"日本文学シリーズ"という上演スタイルは、現代演劇の金字塔的作品『寿歌』の作者:北村想が、近代日本文学史に足跡を残す逸品を、その新たなインスピレーションの源泉としながら、和歌や短歌でいう "本歌取り"の手法よろしく、本家作品との立体的なコラボレーションを展開していこう、と立ち上がった企画です。
2013年12月に上演されたシリーズ第1弾では、太宰治の未完の絶筆「グッド・バイ」を取り上げ、小説の設定を踏まえつつ、登場人物やストーリー展開に大胆な発想を加味!その結果、軽妙な中に透明な叙情感を湛えた「北村想版 ラブ・ロマンス」を謳いあげました。本作は、年間の最も優れた新作戯曲に贈られる「鶴屋南北戯曲賞」を受賞。'70年代後期の『寿歌』発表以来、伝説的な人物として語られてきた劇作家が、21世紀に放った「大人の青春物語」の瑞々しさに心ふるわせ、第2弾上演への期待感を膨らませた方々も多いのではないでしょうか。
そして、いよいよ待望のシリーズ第2弾作品『草枕』の幕が上がります。
実は北村想自身は、執筆前までは、さほど『草枕』への興味はなく、ごく限られた漱石作品しか読んでなかったと語っています。そんな”食わず嫌い”は、北村旧知の演劇評論家・安住恭子氏が'12年に発表した『「草枕」の那美と辛亥革命』という著作によって一変しました。この作品は、『草枕』のヒロイン那美のモデルとされている前田卓という女性についての評伝で、これに刺激を受けた北村は、原作の骨格を大きな枠組みとしつつ、漱石流の芸術論をタテ糸に、ヒロイン那美やモデルとなった女性から得たインスピレーションをヨコ糸にした新たな作品を織り上げ、『日本文学シアター Vol.2』上演が決定したのです。
本作には、北村想ならではの軽妙な可笑しみと心がふるえるような叙情感が絡み合った独特の美学が貫かれています。
それが、不思議なほど自然に漱石の文体とも融合し、画工が旅した”山路”の向こうに、どんな風景が広がるのか、という期待を抱かずにはいられなくなるでしょう。
出演は、第1弾『グッドバイ』で、作者の分身とも思える老教授の純愛を演じ絶賛を浴びた 段田安則 が、本作の主人公である画工(画家)を演じます。
また、物語のカギを握る謎めいた女性=ヒロイン那美 には、北村想が執筆時からヒロインとしてイメージしていたという 小泉今日子 が登場。そして、画工の旅路の行く先々に現れる男女複数の人物を 浅野和之 が演じるほか、春海四方、山田悠介が、主人公とヒロインに関わりながら物語が静かに進行していきます。演出は、前作『グッドバイ』で、レトロで乾いたタッチの中にぬくもりを感じさせる演出で好評を博した 寺十 吾 が続投。北村想の信頼も厚い 寺十の今回のアプローチにも注目が集まります。
シス・カンパニーがお届けする新作戯曲シリーズ『日本文学シアター Vol.2 【夏目漱石】 草枕』に 是非ご期待ください。