原題「Home and Beauty(故国と美女)」の初演は、ロンドンのプレイハウス劇場において、1919年8月よりロングランを記録。同年秋にアメリカにわたり上演され人気を博した。アメリカでの公演では、「Too Many Husbands(夫が多すぎて)」というアメリカ向けのタイトルが付けられて上演された。この戯曲が上演された第一次大戦後の欧米社会には、図らずも、"重婚" という不道徳な事態の当事者になってしまうケースは、実際よくあった深刻な社会問題であり、また、戦後の物資不足の混乱に乗じて台頭する「戦争成金」の存在も、階級制度が絶対的だった英国社会システムには大きな脅威となりつつあった。そのような社会状況や変化を、モーム独自のシニカルなアングルと筆致で、しかも、当時としてはキワドイ(?)艶笑っぽいテイストも漂い、「不謹慎で不道徳」という物議をかもしたという。しかし、その後もたびたび再演を重ね、何度か映画化もされている。日本では、1955年にジャック・レモンとベティ・グレイブル主演でミュージカル化された「Three for the show」が、「私の夫(ハズ)は二人いる」という邦題で公開された。ただし、物語設定や結末は、ハリウッド的な脚色が成され、原作とは趣きが異なる。
 また、この作品の終盤に、「離婚訴訟」をめぐるやりとりが描かれているが、これは作品発表当時に存在した、英国の「離婚法」を揶揄したものと言われている。その当時の「離婚法」とは、夫婦が離婚するには、配偶者の「不貞」や「暴力行為」などを証人出廷のもとに、法廷で具体的に立証しなければならない、というもの。その矛盾点を、この芝居の主人公たちと離婚専門弁護士とのやりとりに込めて風刺し、観客たちはそれを笑い飛ばしながら溜飲を下げたという。この芝居との関連性は不明だが、この「離婚法」は初演から数年後に改正されたという。
 日本では2001年に、海保眞夫氏翻訳による「夫が多すぎて」が出版されているが、上演は今回が本邦初演である。